試乗コース/イオックスアローザ インプレッション/釘村忠

Betaの23年モデルについて

2023年モデルのBetaシリーズはユースクラスやレディース、そしてビギナーライダー向けと言える2ストローク125ccのRR2T125のモデルチェンジが最大のトピックです。

21年モデルで大幅なアップデートを受けていたRR2T125は、それまでの扱いやすいキャラクターからレースよりの性格へ変貌を遂げています。旧モデルも選手権で戦えるレベルの高回転域のパワーがあり、ハイレベルのライダーを満足させるものでしたが、この23年モデルではさらにクランクのカウンターウェイトをコンパクトなものとすることで全回転域のレスポンスを高めています。

このモデルチェンジによって全域におけるトルク感が向上しており、ハイレベルからビギナーまでを満足させるレンジの広いマシンに生まれ変わりました。

また全モデル共通で外装とサスペンションがリニューアル。ライダーが不意にブーツなどをひっかけづらくなった新シュラウドや、高速域でのカッチリした剛性感を手に入れたサスペンションをぜひ一度お試しください。

全モデルのフロントサスペンションはザックスで、内部構造を見直しました。フォークピストンの周りのオイル通路の形状が変更されたことでフォーク内部のオイルの流れが適正化、よりサスペンションの動きがスムーズになっています。

RR2T125/200
格段に進化したスモールロケット

モデルチェンジしたRR2T125のエンジン。クランクケースの設計から見直しています。

自分はオフロードマシンの開発に関与してきた経歴もあって、各部の調整による効果は理解しているつもりです。だから23年式のRR2T125がクランクのカウンターウェイトを小さくしたという話を聞いたときに、きっと軽く回るんだろうなと思ってしまっていました。ところが実際乗ってみるとそういったフィーリングではなく、全体的にトルクが出ているように感じて驚きましたね。特に5000~6000回転くらいの回転域がとても力強く感じます。ワンランク上の力強さですね。そのくせ、そこから高回転までキレイに回転数が上がっていくんです。今年はRR2T200で全日本に参戦していたのですが、来年はRR2T125もありかな? って一瞬思っちゃったほどです。

イオックス・アローザのコースは上りが多くて125ccには難しいようなセクションも多いのです。去年モデルでは高回転域を使うととても力強く上っていくのですが、パワーバンドを外したくないので頻繁にギヤチェンジする必要がありました。今年のエンジンはそういった神経質なところが無くなっていてギクシャクせずにスムーズに走れます。上級者向けだったエンジンが、だいぶエントリーユーザーに対しても優しくなった印象です。

Betaの125ccは車体が小さいところも魅力の一つですね。操安性に優れているから速いスピードでコーナーに入っていったときにすっと倒せます。エンジンのトルク感が上がった影響もあって、昨年モデルよりもさらに小柄に感じます。サスペンションも好印象でしたね! 楽しく乗れるバイクというコンセプトに合っていて、低中速域でのサスペンションの動きがとてもスムーズ。コツコツするような感覚は皆無です。スピード域が高くなるとスタンダードのザックスサスペンションでは対応しきれないんですが、今日のイオックスアローザのコースでは限界まで使うことは無く、対応しきれないようなシーンもありませんでした。だいたい70~80km/hくらいのペースで飛ばしても破綻することはないですから。

RR2T200は昨年の外装・サスペンション以外を継承したモデルで125がベースになっています。先述したとおり僕が全日本エンデューロ選手権に参戦していたバイクなのですが、こちらは125よりも250寄りのバイクですね。125のように回して乗れないけれど、250ではパワーがありすぎるというような、125よりもビギナー向けと言えるかもしれません。

200ccのエンジンは美味しいところが低中速にあるので、早めにシフトアップしていくことが車速を伸ばして走るポイントです。乗り始めは小排気量車なのでとにかく回して高回転をキープするように走っていたのですが、シーズン後半に排気量に合わせるよりもエンジンのキャラクターにあわせた走り方をするほうが速く走れるんだと気づいたんです。僕自身は4スト450に乗っていた時も、RR2T300に乗っていたときも低中速のトルクが乗ったところをうまく使いながら走ろうとしてきたので、RR2T200にマッチしていたんですね。決して僕が乗ったからと言って上級者向けというわけではありません。むしろいろんな人にマッチするマシンだと思います!

排気量が大きくなっている分、125と車体が同じなのに受ける印象は違ってきます。125はバネ下の軽さを強く感じますが、200の場合はどちらかというとどっしりしているような印象を受け、安定して走れるフィーリングですね。たとえばギャップで跳ねられながらコーナーに入るような時、125よりも200は暴れづらいように感じます。角がとれて丸くなってるような、そんな印象ですね。実際には車重も変わらないので本当に印象だけですが。

 

 

RR2T250/300
きっかり回る250、楽ができる300

エンデューロでは一番のメインクラスとも言えるRR2T250/300ですが、250はしっかり回せるバイクに仕上がっている一方、300はトルクで走るバイクです。実は125/200の関係に似ているんですよ。高回転のパワーで走る250と、低中速の美味しいトルクを使いながら走る300という関係性です。ところが改めて今日乗ってみると300は250ほど回らないものの、十分に高回転まで回せて走るバイクだということに気づきました。200の場合はヨーロッパの選手権で走る場所がないので純粋にプレイバイクなのですが、300の場合は最大排気量のE3クラスを走り、さらにはブラッドリー・フリーマンの手によって何度もチャンピオンに輝いているマシンですからね。コンセプトが違うのでしょう。

250はマルチに使えるだけの低中速トルクがあるのでトレイルライディングなどにも向いています。200と比べてみても50ccの差がしっかりあって、より余裕があって楽に走れますね。ただし、しっかり開けて走ると純粋なレーシングマシンなんだと気づきます。高回転のパワーバンドを維持しながらタイムを狙いに行くとものすごく速い。こちらもスティーブ・ホルコムが何度もタイトルをとってきたマシンですから完成されている感がありますね。ただ、そういう走り方は当然ですが美味しいところをキープし続けなくてはいけないので、難しいし疲労も蓄積します。

300の場合は250でタイムを狙いにいく時に難しい高回転の維持が、だいぶ優しくなります。250ではコーナーでギヤを落とさなくてはいけないようなシーンでも、ひとつ高いギヤでこなせますし、キャンバーなどの難しいセクションでは低速トルクをつかって路面をひっかくこと無くトコトコと走ることができますね。開けなくても前に進むので早めにギヤをあげていってスピードに乗せていく乗り方があっていて、僕にとってはオンタイムでタイムを狙いにいくとなるとRR2T300が一番狙いやすいバイクだと思っています。

前述のフリーマンは250に乗っていた時はだいぶバイクを押さえつけながら走っていた印象がありました。300に乗ってからは落ち着いて乗っている印象で、全盛期のホルコムに似ていると感じています。理想的にはフリーマン×300の落ち着いていて、なお速いスタイルの方が、理想なのではないかと考えています。モトクロスだったらいかにトップスピードに早くのせていくかが大事なのですが、エンデューロの場合は低速まで落とさなくてはいけなかったり、路面ミューが急激に落ちたり様々なシチュエーションがあるのでエンジンキャラクターにあわせて走ることが大事になるのでしょう。

 

 

 

RR4T350/390
とにかく軽い、250のようだ

RR4T350の印象がものすごく強いですね!これ、350なのか?って疑ってしまうくらいに軽く感じるんです。僕はBetaの前はホンダの450ccに乗っていたのですが、こんなに軽くはありませんでした。350という数字からは450クラスの重さを想像していました。車重で言えばCRF450RXもRR4T350もたいした差はないはずですが、おそらくエンジンのフィーリングや車体の良さによって軽さを感じているのだと思います。

特にその軽さを感じるのはコーナリングですね。車体の重さが中央に集まっていてだいぶ低重心の印象です。たとえば連続でコーナーをターンするような素早い切り返しが求められるところなどでは、他のバイクでは2つめのコーナーで少しひっかかるようなところがあるんですが、RR4T350はぺたっと寝てくれますね。エンジンは低速域のアクセルを開けた瞬間のトラクションがとてもいいです。

トラクションコントロールが効いているのもあるかもしれませんが、前に進もうとする力がすごく強いんですね。スロットルとリアタイヤが直接つながっているようなそんな感覚があって、リアタイヤをごく自然に回して前に進めるようなフィーリングなんです。このリニアさが無駄に開けずにしっかり前に進む特性を生み出しているのかなと思いました。昨年のモデルと比べてかなり進化を感じます。かといって高回転域はしっかり上まで引っ張ることができるんですよね、350ccも排気量があると頭打ちが早いことが多いのですが、レブ域までしっかり使えます。

RR4T390は350のボアをそのままにストロークを伸ばしたエンジンなのですが、思ったよりもその差を感じられなかった印象です。390ccもあると暴力的なパワーなのかと思いきや、思ったよりも扱いやすいのです。トルクは40cc分しっかりあるのでパワーの太さは感じますね。Betaのなかでは他メーカーのスタンダードである450ccにかなり近い排気量になると思うんですが、450ccっぽさはまるでありません。350の軽いフィーリングのままトルクを増やしたような乗り心地です。頑張ってスロットルを開けても俊敏についてくるようなエンジンではないので乗りやすいです。エンデューロバイクというよりは、トレイルバイクのような印象的でした。

車体の軽さも350と同じです。小さくて、4ストならではのどっしり感がありつつも、コーナーに入ったときに身体が反応しやすいキャラクターで、やはりぺたっと車体が寝かしこみやすいんです。サスペンションとのマッチングもよくて、バランスの良さが際立ちましたね。350も390もラインに入りやすくて、そこからボディアクションをとりやすいのです。

 

 

 

総括
個性あふれる6台、ベストチョイスは……

Betaの場合はどのバイクも振り回しやすさはあって、楽しさと速さの両立はできるはず。そしてどれをとっても個性がちゃんと出ていて、その個性を自分のものにしながら走ることがとても楽しいんですよ。あらためてバイクって楽しいなって思えるバイクたちです。

その中であえて言うなら僕が一番速く走れるバイクは、RR2T300だと思います。トルクとレーシングさのバランスが優れていてタイムでは一番速いはずです。一番楽しいものを選べと言われたら、RR2T125でしょうか。今回一番びっくりしました。どこでも楽しく走れるんじゃないかなと思いますね。